学校教育が始まってから100年以上、「学年別一斉指導」というシステムが中心となってきました。
一つの教室で、同じ年齢の子どもたちが、同じ教材を、同じスピードで学ぶ。
これが長く“当たり前”の姿とされてきました。
しかし、教育の現場に長く立っていると、誰もが気づくはずです。
同い年でも、学力はバラバラ。
同じ学力でも、発達段階はバラバラ。
同じ発達段階でも、興味・不安・家庭環境すべてがバラバラ。
つまり、「同じ子ども」は、この世に一人もいないのです。
それにもかかわらず、教育の多くは「同じもの」を「同じように」学ばせる方式のままです。
この記事では、
「個々の学習到達度・発達段階に寄り添った学び」が、なぜ今の時代に必須なのか
を、科学と現場の実感から深く掘り下げていきます。
1.子どもは「同じ年齢」でも大きな差がある
① 学力差は“努力”だけで説明できない
学力には、
- 読む力
- 書く力
- ワーキングメモリ
- 注意の持続
- 語彙量
- 推論能力
など、多くの要素が関係します。
これらは、
生まれつきの特性 × 家庭環境 × 生活リズム × 学びの経験
の複雑な組み合わせで育ちます。
「努力していないから遅れている」と単純化できる問題ではありません。
同じ授業を聞き、同じ問題を解いたとしても、
土台の違いが大きいため、結果が違うのは当然なのです。
② 発達段階の差も非常に大きい
発達心理学が示すように、子どもの発達は階段のように揃って伸びるものではなく、
デコボコがあり、進んだり戻ったりしながら育つ
ものです。
同じ年齢でも次のような差があります。
- 思考が抽象的にできる子・できない子
- 集団での行動が得意な子・苦手な子
- 言語能力の発達が早い子・ゆっくりの子
- 感情のコントロールができる子・難しい子
- 手先の器用さに差がある子
「その子に合った段階」で提示された学びは吸収されますが、
合っていない段階で与えられた学びは、
どれだけ頑張っても“届かない” のです。
③ 興味・安心・人間関係といった“非認知能力”も差を生む
近年“非認知能力”という言葉が広まりましたが、これは学力と同じかそれ以上に、学びを左右する重要な力です。
- やり遂げる力(GRIT)
- 自己肯定感
- 人に助けを求める力
- 人間関係を築く力
- 好奇心
- 不安の強さ
これらは子どもによって大きく異なり、「学び方」に直結します。
同じ問題を解いていても、意欲の背景が異なれば、結果は大きく変わります。
2.一律教育のままでは、誰かが必ず取り残される
学年別一斉指導を、すべて否定するわけではありません。
むしろ、大人数を短時間で学ばせる学校の仕組みは、多くの子にとって有効です。
ただし、問題はここです。
「平均的な子」を基準にすると、必ず“平均から外れる子”が取り残される。
発達や学力の凸凹を持つ子はもちろん、
- 理解が早すぎて退屈してしまう子
- 理解がゆっくりでついていけない子
- 興味や不安の偏りが大きい子
は、学年別一斉指導だけでは十分支えきれません。
そうした子どもたちを置き去りにしないためには、
個々の到達度・発達段階に合わせた学びが必要なのです。
3.“個に寄り添う学び”とは、具体的に何を指すのか
ナガシマ教育研究所では、次の3点を中心に「個別最適化された学び」を実施しています。
① 現在の“到達度”を細かく測る
テストの点数だけでは、子どもの学力は測れません。
重要なのは、
「なぜ解けないのか」「どこまで理解しているのか」
を丁寧に分析すること。
- 読み取りでつまずいているのか
- 手続きの理解が浅いのか
- “わかったつもり”になっているのか
- 不安で集中が切れているのか
原因が違えば、介入方法もまったく違います。
② 各自の“発達段階”に合わせた課題の提示
発達段階が合っていない学びは、
どれだけ量をこなしても効果が出ません。
例えば、
- 説明する力がまだ弱い子に、長文読解を与えても苦痛になる
- 抽象思考の発達がゆっくりな子に、文章題の論理構造は難しすぎる
- 感情が不安定な子は、テストの場面で力を出しにくい
逆に、
その子に“ちょうど合った課題”は、
成功体験→自信→挑戦
のポジティブな循環を生みます。
③ 学びの“方法”も個別最適化する
同じ到達度でも、学び方は違います。
- 目で見て覚える子
- 手を動かして覚える子
- 図で整理すると理解が深まる子
- 声に出したほうが記憶しやすい子
- スモールステップが向いている子
- 一気に学ぶほうが向いている子
これらはすべて、その子の認知特性が違うからです。
方法が合っていれば吸収は早く、
合っていなければ努力しても報われません。
4.“個に合わせる”ことが子どもの自己肯定感を育てる
一律教育では、どうしても“比較”が前提になります。
- 他の子より遅い
- 他の子はできている
- 他の子はもっと優秀
こうした比較は、
子どもの自己肯定感を削り、挑戦意欲を奪います。
一方、個に合わせた学びでは、
「過去の自分」と「今の自分」を比べることが中心になります。
- 昨日より集中できた
- 先週より丁寧に書けた
- 前回より粘れた
- 一つの考えを言えるようになった
この積み重ねが、
学力だけでなく、
子どもの“自分は大丈夫だ”という土台を育てます。
そしてこれは、
人生のあらゆる局面で必要となる“自己効力感”の源です。
ナガシマ教育研究所

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